
2020年6月30日、香港で国家安全維持法が施行されました。
翌7月1日には、さっそく抗議デモの参加者が370人も逮捕されましたね。
中国の国家安全維持法がどんな法律なのか、今後の香港について、分かりやすく解説します。
香港の国家安全法とは?
香港国家安全法の目的や内容、異例の審議状況について調べました。
香港国家安全法は、何のための法律?
国家安全維持法は、以下の4種の行為を罰するための法律です。
- 国家分裂
- 政権転覆
- テロ
- 外国勢力との共謀
簡単に言えば、安全保障に関する法律ということですね。
香港国家安全法の内容は?
香港国家安全法は、6章66条で構成されています。
しかし、全容はいまだ明らかにされていません。
すべて中国語のみで書かれており、英語のものはありません。
香港で施行される法律で英文がないものは初めてだろう。JBpressより引用
https://news.yahoo.co.jp/articles/4d21fdcf97f46f2610549e894f99d4a31f84e10f
国家安全法で特に注目されている点は、次の部分です。
- 香港の法律より優先される
- 国家機密に関わる事例は、非公開で裁判する
- 被疑者に対する監視・盗聴が合法化
- 中国以外の国籍でも適用される(第38条)
- 被疑者を中国へ送致し、中国の法律で裁く(第56条)
香港国家安全法の刑罰は?
報道されている範囲では、次の刑罰内容が分かっています。
- 最高刑罰は「終身刑」「無期懲役」(マスコミ各社で表現が分かれる)
- 主犯は10年以上の懲役
- 軽い場合は、3年以下の懲役、刑事拘留、ボランティアや社会労働を通じての更生など
- 違反者は選挙に立候補できない
最高刑罰については、マスコミ各社で「終身刑」「無期懲役」と表現が分かれています。
「終身刑」と「無期懲役」は、厳密には異なる刑罰です。
英語で書かれた条文がないためか、ニュース記事にも表記に違いがみられます。
少し混乱している印象がありますね。
異例のスピードで可決された香港国家安全法
国家安全法の審議の過程を表にしました。
2020/5/28 | 全国民人民代表大会(全人代)で、国家安全法を制定する方向と決定 |
2020/6/18 | 常務委員会で1回目の審議 |
2020/6/28 | 2020/6/30 | 常務委員会で2回目の審議・施行 |
通常、常務委員会は2カ月に1回の開催です。
1週間おいて、1カ月で2回開催は異例。
約1週間だけの審議で、全会一致で法案可決したわけです。
有無を言わせない、圧倒的な支配力を感じますね。
イギリスが香港を返還したのが、1997年7月1日です。
当時、中国は「今後50年間は一国二制度を維持する」と香港に約束しました。
現在も表向きは「一国二制度は揺るがない」と全人代での発言がありますが、事実上形骸化したことになります。
中国の「一国二制度」とは?
「一国二制度」は中国の政治制度です。
1982年に鄧小平が使い始めた言葉と言われています。
【香港・マカオの場合】
- 「特別行政区」という位置づけ。
- 高度な自治が認められている。
- 中国に返還されても、経済・法律制度、生活方式、外国との関係を変えなくていい。
- 立法権や貨幣の発行権も認められている。
【台湾の場合】 - 1945年に日本が台湾から撤退後、国民党の蒋介石が新政府を樹立。
- 中国共産党と対立していたため、違う政治制度を敷いた。
- これにより、同じ中国でありながら、二つの政治制度に。
- 台湾は、現在も中国からの完全なる独立を目指している。
香港・マカオと、台湾では事情が異なるんですね。
香港国家安全法ができたきっかけは?
ある香港人の殺人事件がきっかけとなって、事態が発展していきました。
2018年2月 | 香港人の男性が、同じく香港人の女性を、台湾で殺害。 |
2018年3月 | 台湾政府は香港当局へ、男性の身柄引き渡しを要求。 |
2019年2月 | 香港政府、容疑者引き渡し条例の改正案を議会提出。 これにより、中国に批判的な香港の活動家が、中国政府に引き渡される可能性が出ることに。 |
2019年後半 | 香港で、条例廃案のデモ活動などが活発になる。 |
2020年6月 | 中国政府が香港国家安全法制定へ |
国家安全法に対する海外や中国本土の反応は?
今回の香港国家安全法施行を受けて、海外や中国本土の中国人はどういう反応を示しているかまとめました。
中国企業が香港へ続々と進出
2019年11月から、中国企業が続々と香港のテナント入りしています。
2020年6月になると、香港の株式市場に上場する中国企業が増加しています。
今後もこの傾向は続きそうです。
また、気になるのは中国本土から香港への移住。
今回は、安全保障の法律制定なので、大規模な移住はないかもしれません。
ただ、香港への中国企業の進出や、国の出先機関が増えることで、本土から移住してくる人はいると思われます。
アメリカは香港の優遇政策を停止
2020年6月、アメリカは香港に対する優遇政策を停止しました。
- 警察の装備(銃器や弾薬)などの輸出規制
- 中国当局者へのビザの発給制限
他にも、アメリカ政府が香港に所有している不動産資産(約1400億円)を売却すると発表。
中国政府の差し押さえを恐れてのようです。
イギリスは香港300万人の移民政策を検討
もともとイギリスの植民地だった香港。
1997年の中国返還時、イギリスは香港人に対して「BNO」を発行しました。
BNOとは、「英国海外市民旅券」のこと。
イギリスにビザなしで最長6カ月間滞在できます。
このBNOを所持している香港人は、現在30万人。
イギリス政府は2020年7月1日、香港市民の移住方針を公表しました。
【対象】
300万人の香港市民
【内容】
BNOの滞在期間を6カ月→5年間に延長(労働も可)
5年経過時点で、永住権の申請OK
永住権取得から12カ月後、市民権の申請OK
手厚い内容になっていますね。
これに対し、中国政府は、内政干渉としてイギリスに反発しています。
国家安全法後の香港はどうなる?
大きな岐路に立たされている香港。今後どうなっていくでしょうか。
香港の治安は良くなる?
今回の香港国家安全法の施行により、今後の政治活動は非常に厳しくなると予想されています。
有名な民主活動家や独立派の一部は、自分たちが真っ先に拘束されると予想し、活動組織を解散した。
ロイター記事より引用
https://jp.reuters.com/article/explainer-hongkong-security-law-idJPKBN242476
これまでのような組織的な活動は、少なくなっていくと思われます。
2020年7月1日には、すでにデモ参加者370人が逮捕されました。
昨年から香港では週末ごとにデモが行われ、警察とも激しく衝突していました。
国家安全法による厳しい取り締まりが続けば、次第に鎮静化していくでしょう。
外国人旅行者にとっては「治安は良くなった」と思えるでしょうが、香港市民にとっては「自由がなくなった」と不安や不満が増していくと思われます。
香港市民は海外へ移住する?
香港大学が行った調査では、香港人は自分のことを「香港人」と思っていることが分かりました。
「中国人」と思っている人は15%しかいなかったそうです。
2017年の調査では、18~29歳の若い世代では、自分を「中国人」と思っている市民は3%だけだったようです。
中国と「同化」することに、危機感を持ち、抵抗感のある人は多いと思われます。
また、古くから「華僑」と呼ばれる、海外に移住する中国人は多くいます。
1997年の香港返還を見据えて、1980年代から1997年までに海外へ移住した香港市民は多くいました。
数十万人が、カナダやオーストラリアなどへ移住したと言われています。
返還当時は、中国が「一国二制度」を文書にサインして約束しました。
それで、海外移住を見送った人も相当数いたようです。
しかし、今回は国家安全法という具体的な法律が制定されました。
中国政府が、法律制定の動きを見せると、海外移住を検討する市民が急増したようです。
香港の移民手続きの代行サービス会社には通常の5~6倍の問い合わせが殺到。六つの電話回線が全てふさがった。台湾や米国、カナダなどへの移住相談が多かったという。
朝日新聞より引用https://www.asahi.com/articles/ASN5S62X1N5RUHMC003.html
国家安全法の施行初日から多くの逮捕者が出たことで、移住を考える人は増えそうです。
また、イギリスが大々的な移民政策の方針を打ち出したことにより、イギリスに移住する人も増えると思われます。
まとめ
2019年は、週末ごとに香港で激化するデモが世界中で報道されました。
ニュースを見て、不安になった人は多くいると思います。
今回の国家安全法の制定により、香港市民が弾圧されないことを願います。