映画『パラサイト 半地下の家族』で、社長の妻が夫に「時計回りでお願い」という場面がありますね。
ちょっとよく分からない笑えるセリフですが、実は深い思いが込められていました。
この記事では
- 「時計周り」の意味は?
- 場面の構図にも、家族の格差が表現されている
について、解説します。
【パラサイト】時計回りの意味は?実は深い意味があった!
映画『パラサイト 半地下の家族』には、ひやひやする場面がありますね。
泊りがけでキャンプに行っていたはずの社長家族が、突然帰宅します。
豪邸でくつろいでいたキム一家は、大慌て。
逃げる暇もなく、父親ギテク、息子ギウ、娘ギジョンは、リビングテーブルの下に仰向けに寝そべって隠れます。
社長と妻は、テーブル脇のソファで抱き合って、事をいたそうとするんですね。
その時に妻が夫に「時計回りでお願い」と言います。
ちょっとコメディっぽくて笑えるシーンですが、実は深い意味がありました。
長文ですが、ポン・ジュノ監督のインタビューを引用します(赤字は管理人による)。
私、この場面をシナリオで書いた時から、一番必須的なシーンと思ってました。
この映画は人物が意図しようと、そうでなくても、他人の私生活を覗き見ることになって巻き起こる悲劇です。
父と子供が未成年観覧不可な映画を一緒に見れば、ただでさえ気まずくなるのに、
ましてや、実際のセックス行為が目の前で起きている状況の気まずさと言ったらなおさらで、
この場面は、宋康昊[ソン・ガンホ]にとっては、転換点になるのです。
「偉大なるパク社長様に感謝の祈り」を捧げると言っていた人が、
今では、パク社長家族から心情的に距離を置かれる出発点となってしまったという意味では、必ず必要なシークェンスと考えていました。
なので、このセックスシーンでは、最大限の緊張感と圧迫感を観客には感じてもらわねばなりませんでした。
エロい映画を見て、快感のようなものを感じられては絶対にダメで、
どうかこのシーンが早く終わったらいいのに、と圧迫感を観客に感じさせねばいけないと思ってました。
その圧力を劇中の宋康昊[ソン・ガンホ]と観客にそっくりそのまま味わってもらうことを願ってました。
本当に窒息するような感じ、
このシーンで流れる音楽と雰囲気も圧力釜の内部が膨張するようなイメージを感じ取ってもらえればいいですし、
音楽監督にはそのようにお願いしました。
引用:http://kagami0927.blog14.fc2.com/blog-entry-3828.html
監督は、気まずい緊張感のある場面で、観客に「この場面、早く終わって!」と思ってほしかったんですね。
「時計回りでお願い」というのは、「時計回り=時間を早回し」という意味ということ。
業界用語でいう「巻きでお願い=急いで、早く」というのと似てると思います。
妻の「時計回りで(早く終わって)」というセリフを、観客にも言ってほしかったんですね。
観客に言ってほしい言葉を、妻に代弁させたと考えてもいいでしょう。
また、くすっと笑ってしまうセリフであるため、映画を観終わった後でも、記憶に残るインパクトがあります。
パク社長とギテクの運命が、分かれていく出発点という大事な場面を、観客は逃さず覚えていられるわけですね。
【パラサイト】時計回りの場面は、家族の格差を構図でも表現
この映画は
- 高台=裕福なパク家
- 半地下=貧しいキム家
- 地下室=最底辺の元家政婦夫婦
という、3つの格差家族が登場します。
住んでいる場所で、格差が分かるように工夫されているんですね。
社長の妻が「時計回りで」という場面でも、構図で視覚的に、キム家とパク家の格差が表わされています。
- 高級ソファの上=パク夫婦(高台・裕福)
- テーブルの下=キム親子(半地下・貧乏)
2つの家族の格差や立場が、家具の高低で表現されているというのは、おもしろいですよね。
お金持ちのリビングテーブルの下に、親子3人身を寄せ合って、仰向けに寝そべって隠れるというのは、みじめな体験だと思います。
さらにその状況で、「運転手が臭い」みたいに言われてしまうんですものね。
社長は本人が足元にいると知らないので、悪気なく言ってしまいます。
しかしギテクからすれば、ショックで恥ずかしい思いをするわけです。
寝転んだ状態で、自分の服の匂いをそっと嗅ぐギテクが切ないです。
この場面は、映画の最後のショッキングなシーンへの、大切な伏線にもなっています。
【パラサイト半地下の家族】解説・考察記事一覧
【パラサイト】時計回りの意味まとめ
映画『パラサイト 半地下の家族』で、社長の妻が夫に「時計回りでお願い」という場面があります。
ユーモラスでつい笑ってしまいますが、インパクトがありますよね。
- 「時計回りでお願い」は「早く終わってほしい」の意味
- 監督は、観客が「早く終わってほしい」と思う場面にしたかった
- 観客に言ってほしいセリフを、社長の妻に代弁させている
- 高級ソファの上」と「テーブルの下」という構図で、視覚的に格差を表現している