映画『パラサイト半地下の家族』のタイトル

『パラサイト 半地下の家族』では、ミニョクがプレゼントした山水景石(水石)が、映画のあちこちの場面で登場します。

映画の最後では、ギウが水石を捨てるという意味深な場面もありました。

「水石に何か意味があるの?」と思った人も多いのではないでしょうか。

この記事では、

  • 水石の意味は?
  • 各シーンで、水石はどんな役割・効果を出してる?
  • 洪水で浮いた水石は、偽物?
  • ギウは水石を持って、地下室に何をしに行った?

について、詳しく解説します。

【パラサイト】水石の意味は?キム一家の夢や希望などを象徴

映画の冒頭で、大学生の友人ミニョクが、キム一家に山水景石(水石)をプレゼントします。

映画の最後にギウが川に捨てるまで、この水石は6回映画に登場します。

水石と対照的キーワードとなる「安分知足」や、水石はどんな場面で出てくるのか、見ていきましょう。

水石の対照的なキーワード「安分知足」とは?

まずは、キム一家がどんな家族か確認しましょう。

  • 半地下のアパートに住んでいる(=低所得)
  • 4人家族で全員無職
  • 父親は、台湾カステラの事業に失敗
  • 母親は、投てきのメダリスト(だが無職)
  • 長男は、4回受験に失敗
  • 長女は、美大に行きたいが予備校に通えない
  • wifi回線を契約する金銭的余裕がない

母親はメダリストで、陸上に才能があることが分かりますが、仕事に活かせていません。

そんなキム家の壁には「安分知足」という額がかかっています。

一般的には「知足安分」と言うことが多いです。

次の意味があります。

高望みをせず、自分の境遇に満足すること。

「知足」は足ることを知る意。

分をわきまえて欲をかかないこと。

「安分」は自分の境遇・身分に満足すること。 

引用:三省堂 新明解四字熟語辞典

つまりは戒めの言葉ですね。

一瞬だけ、すみっこにしか映らないので、気づかなかった人も多いかもしれません。

しかし、この映画では重要なキーワードとなっています。

映画冒頭のキム一家は、「安分知足」を戒めとして、全員で内職して貧しさをしのいでいる家族だったんですね。

ミニョクがくれた水石の意味は3つ

貧しいながらも実直なキム一家が変わるのは、ギウの友人である大学生ミニョクが、水石を贈ってから。

ミニョクは、以下のことを言います。

  • 祖父から届けてくれと頼まれた
  • ミニョクの家は、リビングから書斎まで、水石があちこち置いてある
  • 水石は、財運と合格運をもたらす

ギウは「本当に象徴的だね」

ギテクは「今の俺たちにぴったりだ」

チュンスクは「食べ物が良かった」

と、それぞれ感想を言います。

水石は裕福な人たちが好む観賞用の石で、いわゆるパワーストーンの一種

ギウやギテクのセリフや状況から、水石がキム一家の願いや夢、希望を象徴していると言えるでしょう。

また、ミニョンは水石をプレゼントしてくれただけでなく、家庭教師の話も持ち掛けます。

全員無職の家に、就職話がきたわけです。

「財運と合格運をもたらす」という水石に、信ぴょう性がでますよね。

ミニョクがキム家にプレゼントする場面から、

  • 水石は、お金持ちの象徴
  • 水石は、キム一家の夢や希望の象徴
  • 水石は、お守りとしての効果も家族に強く印象付けている

と言えるでしょう。

水石で酔っぱらいに対抗=凶器の伏線

次に水石が登場するのは、半地下の家の前で、酔っぱらいが立小便をするシーンです。

ギウは「ぶっ殺す」と言って、水石を持って外へ出ようとします。

この場面では、水石は「凶器になりえる」という、後半のシーンへの伏線として登場しているように思います。

水石が浮いた?偽物ではなく心理描写

パク社長一家がキャンプへ行っている間、豪邸でのんびり過ごすずだったキム一家。

しかし

  • 元家政婦のムングァンが突然現れ、大騒動になる
  • パク社長一家が急に帰宅し、とても焦る
  • 逃げ帰ったら、自宅は水没していた

という、とんでもない展開になります。

半地下の家は、あっという間に水没してしまいました。

あのシーンでは、水石が浮いてきたようにちょっと見えますよね。

そのため、「あの水石は、偽物ではないか」と思う人もいるようです。

しかし

  • 水石は、もともと棚の上(高い場所)に置いてあった
  • 地下室の階段を転がる音で、石が重いと分かる
  • ギウが殴られ大量に血が出たことから、石が重いと分かる

ことから、石が偽物と言い切るのは難しいかなと思います。

水に浮くって、かなり軽いはずですからね。

そんなに軽くては、殴られた時にあんなに血は出ないはず。

水石は「キム一家の夢や希望」の象徴です。

ただでさえ貧しい半地下の家が水没するという悲惨な状況で、ギウは「こんな貧乏、嫌だ」と思ったのではないでしょうか。

さっきまで、パク社長の嵐にビクともしない豪邸で、悠々としていたんですものね。

やりきれない思いのギウには、夢や希望の象徴である水石が浮かび上がってくるように見えた、という心理描写ではないでしょうか。

ギウは水石を抱えて避難します。

どうしても夢や希望を捨てられない、という切実な思いが込められている場面だと思います。

また、パク家から裸足で逃げ帰る途中、ギウは「ミニョクならこういう時、どうするだろう?」と言いますね。

ミニョクがくれた水石は、ミニョクの分身のような意味も持っているように思います。

水没した家から持ち出した水石は、「頼りにしているもの」の象徴でもあるのではないでしょうか。

水石を抱いて寝る=心のよりどころ

避難所の体育館で、ギウは水石を抱えて寝ます

父親のギテクが「何で石を抱えてるんだ?」と尋ねます。

ギウは、「僕にへばりつくんです。僕についてくるんです」と答えます。

この場面では、「夢や希望を捨てられない」という気持ちを、別の視点から表現しているように思います。

「石が僕についてくる」と、石が主語になっていますね。

ギウは「自分が夢や希望を捨てられない、手放したくない」ということを、自覚していないのかもしれません。

水石を持って避難したのも、「どうしてか分からないけど、持ってきてしまった」という感じでしょうか。

キム一家は、ほとんど身一つのような状態で避難しています。

家まで失くしそうな状況に絶望しないために、夢や希望を抱きしめ、すがらなければ、やってられないのではないでしょうか。

この場面で水石は、溺れかけている人にとっての「浮き輪」のような役割を果たしています。

夢や希望の象徴(水石)が、心理的に追い詰められているギウにとって、唯一の心のよりどころになっているという場面だと思います。

水石で地下室男を殺そうとして逆襲される=因果応報

https://twitter.com/oleffiImz/status/1346671066362601472

半地下の家が水没した翌日、ダソンの誕生パーティで、ギウはダヘに尋ねます。

「みんな急に集まったのに、クールですごく自然だ。ダヘ、僕は似合う?似合ってるか?ここに」

ギウは、自分のあり方に疑問をもちます。

不相応に感じているようです。

ここで映画冒頭に出てきた「安分知足」の言葉が、思い出されますよね。

そしてギウは、水石を持って地下室に降ります。

セリフなどで明確に言っていないので、何をしに地下室へ行ったのか、ちょっと分かりにくいですよね。

ギウは、グンセを殺そうと地下室に行ったんですね。

  1. 前夜の避難所でのギテクとの会話
  2. 足音がしないよう、忍び足で地下室へ降りた
  3. 半地下の自宅前で立小便した男を、水石で殴ろうとした伏線がある

    という状況から、グンセを殺そうとしたことが分かります。

    ひとつずつ見てみましょう。

    避難所でのギテクとの会話

    前夜に避難所の体育館で、ギウは父親とこんな会話をしています。

    父親:「人を殺そうが国を売ろうが、知ったこっちゃない」

    ギウ:「ごめんなさい。僕が全て責任をとります」

    ギウにとっては

    責任をとる=邪魔者を排除する

    ということだったのでしょう。

    足音を立てず忍び足で地下室へ降りた

    足音がしないように、忍び足で地下室へ降りて行ったのは、グンセに気づかれないためですよね。

    そういう場合、基本的にやましい思いがあるから、忍び寄るわけですね。

    しかし、水石を落としてしまい、結局気づかれてしまうというドジを踏みます。

    立小便した男を石で殴ろうとした伏線

    映画の前半で、ギウは半地下の自宅前で立小便した男を「ぶっ殺す」と言って、水石をもって家を出ようとしました。

    そういう性格のギウなら、水石でグンセを殴ろうとしても、おかしくないですよね。

    立小便男を殴ろうとしたのは、前述のとおり、石を持って地下室へ降りるシーンの伏線でした。

    グンセに逆襲されて、因果応報となる

    しかし逆にグンセに襲われて、水石で頭を殴られ気絶

    自分の夢を脅かす男を、自分の夢を象徴する水石で倒そうとして、その石で逆襲されてしまいます。

    キム一家は、詐欺でもってパク家に雇われ、不相応にお金を稼いでいました

    ギウは、ダヘが大学生になったら付き合い、いずれは結婚するつもりだと前夜言っていました。

    結婚式は、他人に両親役を演じてもらうという計画を立ててましたね。

    人をだまして不相応な夢を叶えようとして、自業自得のような結果になってしまいます。

    「水石で地下室男を殺そうとして、逆襲された」という場面展開で、水石は「因果応報」を強く印象づけるアイテムとして使われています。

    ここは「安分知足」という言葉が、伏線になって効いてます。

    夢のために身を誤った一家、という感じがしますよね。

    水石を川へ捨てる=より深い絶望

    凄惨な事件の後、1カ月後にようやく意識が戻ったギウ。

    日常生活ができるようになると、パク一家が住んでいた豪邸を見に行くようになります。

    そして、父親のモールス信号に気づくんですね。

    ギウは水石を川に捨て、心の中で父親に語りかけます。

    「父さん、今日計画を立てました。根本的な計画です。お金を稼ぎます。大金を」

    かつて水石は、

    • キム一家の夢や希望の象徴
    • 家族全員を就職させてくれた縁起の良いお守り

    でした。

    しかし、その水石で殴られて死にかけたわけです。

    ギウからすれば、もはや「夢の象徴」「お守り」とは思えない、「禍のもと」のように感じたのではないでしょうか。

    家に置いてあっても、つらい事件を思い出すだけで、いい気持ちはしないはず。

    夢で身を誤ったギウは、水石を捨て「根本的な計画」を立てます。

    表面的に見れば、「ギウは、実直に生きることを決意したんだなあ」と希望を感じるかもしれません。

    「安分知足」の生活を心がけるのかなと。

    しかしそうではなく、ギウがとても絶望的な状況にあることを示唆していると思います。

    ギウの「根本的な計画」とは、金持ちになって父親を助け出すという「計画」ですね。

    「夢」と言っていないところが、ポイントです。

    「計画」という言葉も、映画の中で何度も出てきました。

    父親はギウに「計画を立てるからうまくいかない」と言っていたのに、どうしてギウはわざわざ「計画」を立てたのでしょう?

    それは、ギウは自分の「計画」が実現しないことが、最初から分かっているからですね。

    だからこそ「計画」と言ったのだと思います。

    ポン・ジュノ監督の試算によると、ギウの年収であの豪邸を買うには、547年かかるそうです。

    水石という「夢や希望」を捨て、実現不可能な「計画」を立てたギウ。

    • 金持ちになるという「夢」
    • 金持ちになって父親を救うという「計画」

    どちらにしても叶わないのです。

    脳に障害も負っているし、ギウの今後はどうなるんでしょうね。

    まじめに生きても這い出せない格差社会を、ふんわりさらりと、皮肉っぽくラストシーンで表現していると思います。

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    【パラサイト半地下の家族】解説・考察記事一覧

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    【パラサイト】水石の意味まとめ

    『パラサイト 半地下の家族』で、何度も登場する水石。

    「僕についてくる」とか、最後に捨てるとか、意味深なアイテムですよね。

    • 水石は、キム一家の夢や希望の象徴
    • 水石をもらってから全員就職できるなど、パワーストーンとしての役割も
    • 地下室男に殴られる場面では、夢で身を誤ったギウ一家を表現
    • 水石を川に捨てる行為は、夢も計画も叶わないギウの絶望的な状況を表現している

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