映画『パラサイト 半地下の家族』のラストシーンで、ギウが裕福になって、パク一家の豪邸に引っ越す自分を夢想します。
この記事では、
- ギウの「自力で裕福になる」という夢は叶う?
- 韓国の「格差社会」はどれくらい過酷?
について、分かりやすく解説します。
【パラサイト考察】最後のギウの夢は叶う?格差社会ではかなり厳しい
映画『パラサイト 半地下の家族』では、最後に主人公ギウが、
将来裕福になってパク一家が住んでいた豪邸に引っ越し、父親を救出するという夢想をします。
果たして、ギウの夢は叶うのでしょうか。
『パラサイト』のポン・ジュノ監督は、次のようにコメントしています。
この映画のエンディングで、長男が言いますよね、「いつかこの家を父のために買おう」と。
でも彼自身、それが不可能であることを知っている。
脚本を書いているときに試算してみたんですが、彼の平均年収だと、あの家を購入するのに547年かかるんです(笑)。
引用:https://www.banger.jp/movie/26230/
この映画を作った監督自身が、無理だと思っているんですね。
なぜなら、韓国は強烈な格差社会だからです。
ギウのような貧しい人たちが、底辺から這い出すのは難しい社会構成になっています。
這い出せないから、家族で詐欺をやったわけですね。
日本も格差社会と言われますが、韓国は輪をかけて過酷です。
非常に「生きにくい」社会なんですね。
「格差社会」は映画『パラサイト 半地下の家族』のテーマですが、どのような社会なのか解説します。
ギウは韓国の典型的な「N放世代」
韓国には「N放世代」という、ある種の青年世代を指す言葉があります。
「N」(全ての意)と、「放」(あきらめるの意)が組み合わせた造語ですね。
つまり、「人生のすべてを諦めている世代」という意味ですね。
韓国では2011年から、類似の新語が次々と現れます。
- 三放世代⇒恋愛、結婚、出産をあきらめる
- 五放世代⇒三放プラス就職、マイホーム
- 七放世代⇒五放プラス人間関係、夢
- N放世代⇒人生のすべてをあきらめて生きる
年を追うごとに、韓国の低所得者の人生が、絶望的と言えるほどに悪化していることを表現しているんですね。
映画『パラサイト 半地下の家族』で、父親が「大卒でも、運転手の仕事に500人が応募する」というようなことを言います。
かなりの就職難であることが分かりますね。
キム家は、全員が失業中。
ギウもギジョンも、大学に行きたいと願いながら行けません。
つまり、ギウやギジョンは典型的な「N放世代」なのです。
韓国の格差社会はどれくらいひどい?
わあーい パラサイト来年 地上波放送するのね!面白かったし、ダンママも出てるし 見なきゃ割りと流血が好きなのよねぇ pic.twitter.com/Jj3jGMcwkn
— ようこっち (@aquamarine_1103) December 19, 2020
韓国経済を一言で言うと、「財閥経済」です。
財閥とは、大資本や大企業を一族で独占支配する経営形態ですね。
日本の財閥は、1945年に敗戦した後、GHQに解体されました。
韓国では、サムソンやヒュンダイなどの10大財閥が、韓国全体の75%の富を生み出しています。
所得上位10%の人たちが、国民総所得の45%を占めてるんですね。
10人に1人のお金持ちが、国全体の半分ちかいお金を持っているのです。
ざっくり給与平均で比較すると、
- 中小企業:月17万5千円
- 大企業 :月53万5千円
と約3倍の格差があります(2019年)。
給与だけでなく、福利厚生などでも大きな差がつきますよね。
韓国はどうしてこんな格差社会になったの?
大きかったのは、1997年の通貨危機です。
韓宝鉄鋼の倒産を皮切りに、財閥系企業も中小企業も破綻が相次ぎ、韓国の株価は大暴落。
通貨危機にまで陥ります。
失業者があふれ、非正規雇用者が一気に増加したのです。
四年制大卒者でも、正規職として就職できるのは、約53%程度と言われています。
韓国は財閥が圧倒的に強く、中小企業がほとんど育っていません。
中小企業も財閥の下請けのような事業内容です。
かなりいびつな経済構造になってしまっているんですね。
中小企業がほとんどないということは、中産階級がないということでもあります。
つまり、富裕層と低所得者層の2種類しかない、というのが韓国社会なのです。
韓国は超学歴社会!受験戦争は日本よりはるかに過酷
日本も格差社会ですが、韓国は輪をかけて格差がひどいとお話ししました。
そのため、「大企業に入るためには、一流大学に行かなければいけない」というのが常識です。
日本の国公立だと、
- 共通テストを受ける
- 前期・後期日程で、各大学を受験
という仕組みで、試験は2回、2大学受験できます。
共通テストが多少悪くても、挽回のチャンスはあります。
しかし韓国は、一発勝負なのです。
そのため受験戦争が、日本よりかなり苛烈。
- ソウル大学(倍率8倍)
- 高麗大学
- 延世大学
が、SKY(スカイ)と呼ばれる有名三大学。
SKYに入学できると、財閥へ就職しやすいんですね。
日本の高校には部活がありますが、韓国の高校生は勉強一色のため、部活がありません。
朝6時半から深夜2時まで、勉強するというのが韓国の普通の学生生活なのです。
しかも、青春時代を犠牲にして勉強し、一流大学から大企業へ就職できても、その後の社内競争で生き残れず、退職してしまう人も多いそうです。
韓国で裕福に生きるには、ひたすら競争に勝ち続けなければならない、過酷な仕組みなんですね。
「大学受験の失敗=人生に失敗」というのが確定してしまうため、10代の終わりくらいから「N放世代」として、長いあきらめの人生を生きることになるわけです。
そうならないために、子どもを塾に通わせる家も多いのですが、教育費が家計を圧迫。
大学受験が終わるまでに、塾代で貯金をすべて使い果たし、親の老後の蓄えがなくなってしまう家も多いようです。
かなり厳しい社会と言えるでしょう。
韓国の賃貸住宅は保証金が5000万円かかることも!
『パラサイト』では、キム一家が半地下の部屋に住んでいます。
いわゆる低所得者層が住む家ですね。
韓国の賃貸住宅事情は、日本とだいぶ異なります。
韓国の家賃制度には「チョンセ」と「ウォルセ」なるものがあります。
- チョンセ
賃貸契約時に、まとまった保証金を支払う
月々の家賃は払わなくてよい
保証金は、契約終了時に返してもらえる - ウォルセ
契約時に、ある程度の保証金を支払う
毎月、定額の家賃を支払う
ウォンセは、日本の「敷金礼金、毎月家賃」という仕組みに似てますね。
しかし、韓国ではチョンセの方が一般的。
ワンルームだと、保証金は50万円~100万円
ファミリータイプだと立地にもよりますが、ソウルだと1000万円~5000万円ほどかかります。
日本なら、分譲マンションや一戸建てを買う感覚ですよね。
日本人だと「ウォンセ」は特に抵抗を感じませんが、韓国人からすると「すごくもったいない」気がするそうです。
チョンセだと、保証金は高いけど全額戻って来るし、実質無料で家を借りられるからですね。
しかし何といっても保証金が高すぎるため、「結婚したけど、お金が無くて家を借りられない」という新婚さんが続出なのだとか。
そのため、「結婚をあきらめる」という「N放世代」が出てくるわけですね。
ちなみに、保証金を全額返して家賃も無料なら、大家さんはどうやって儲けるのでしょう?
保証金を、運用するんですね。
銀行の定期預金にして、利息で稼いだりするのだそうです。
現在は昔ほど利息が高くないため、その分どんどん保証金が上がっているとのこと。
利息4%で保証金1000万円だったのが、利息が2%になると保証金は2000万円とらないと、同等の利益は出ませんものね。
例えば、映画『パラサイト』のキム一家は、四人家族でした。
ファミリータイプの家に住もうとすると、数千万単位で保証金がいるわけです。
全員失業中なのだから、どだい無理ですよね。
保証金を支払えるお金持ちは、家賃は無料で、保証金も返ってくるから、実質ゼロ円でマンションに住める。
家賃に関しては、お金が減らないのだから、ずっと裕福ですよね。
お金持ちはずっと金持ち、貧しい人はずっと這いあがれない、という仕組みは、「家」という重要な生活必需品にも如実に現れています。
韓国の自殺者数は先進国で最多
これまで述べたように、韓国社会は非常に苛烈な競争・格差社会です。
そのため、先進国の中でも群を抜いて自殺者が多い国となっています。
10万人あたりの自殺者数は、
- 韓国:26.9人
- 日本:16.5人
日本も自殺者が多い国として有名ですが、韓国はもっと深刻なんですね。
韓国の自殺者率は、OECDの平均の2倍も高いのです。
高齢者ほど自殺率は高く、80歳以上では自殺率が67.4人となっています。
また、10代や20代の自殺率も、前年比で増加しています。
韓国の年金制度は充実しているとは言い難く、月3~4万円ほどです。
80代まで頑張って生きて、最後に自ら死を選ばなければならないほど追いつめられるというのは、つらいですね。
【パラサイト半地下の家族】解説・考察記事一覧
【パラサイト考察】最後の夢についてのまとめ
映画『パラサイト』では、最後にギウが裕福になって、パク家の豪邸に引っ越して、父親を救出する夢想をします。
「ギウの夢は叶うのか?」と思った人も多いのではないでしょうか?
- ギウの夢を叶えるのは不可能(監督談)
- 韓国は強烈な格差社会だから、底辺から上昇するのが困難
- ギウは典型的な「N放世代」として描かれている
- 大企業に入れなければ、一生貧しい生活になりがち
- 大企業に就職するために、大学受験も苛烈
個人的には、ギウが裕福になるには、YouTuberなどのネットビジネスくらいしか、道が無いのではないかと思います。
映画『パラサイト』は、韓国の格差社会を客観的に見せて、改めて問い直す作品と言えるでしょう。