映画『パラサイト半地下の家族』は、父親・ギテクが社長を刺すという、衝撃の結末を迎えます。
予想外の展開に、「父親はなぜ社長を刺したの?」と疑問に思った人も多いのでは?
この記事では、
- 父親がパク社長を刺した理由はなぜ?
- 父親のパク社長への感情は、どのように変化した?
について解説します。
【パラサイト】父親が社長を刺した理由はなぜ?
映画『パラサイト半地下の家族』は、後半に元家政婦ムングァンが戻ってきてから、ストーリーが急展開します。
どうなることかと思っていたら、父親ギテクがパク社長を刺殺するという、まさかの展開に。
父親はなぜ社長を刺したのでしょうか?
まずは、父親ギテクの性格を見てみましょう。
父親は侮辱されると攻撃的になる性格
映画の中で、父親ギテクは楽天的で温厚な性格であることが分かります。
気難しいところのない、妻に頭が上がらない夫です。
しかし、パク社長の豪邸での団らんで、チュンスクが冗談でゴキブリ扱いした時、ギテクはテーブルの物を払いのけ、チュンスクの胸ぐらをつかみました(笑って冗談で終わりましたが)。
いわゆる「カッとなって刺した」というタイプと少し異なるのは、
- 侮辱されたときの怒りの沸点が低い
- 激高する前にもう体が動いている
ように思えるところでしょうか。
「侮辱されて怒り狂う」というステップがないんですね。
そのため、周りからすると「あれ?いま怒ってる?」というふうに見えます。
最後は笑って場をおさめましたが、侮辱されると攻撃的になる性格であることが分かります。
父親が社長を刺した時の心理的な背景は?
父親・ギテクが社長を刺した心理背景として、2つのことは見逃せません。
- 前夜、「天国から地獄」のような大事件がいっぺんに起きた
(豪邸でくつろぎ⇒家政婦らと格闘⇒社長家族の急な帰宅で大慌て⇒自宅が水没) - 地下室男に刺されて瀕死のギジョンを、社長は助けなかった
どちらも、「一生に一度も起きない」という人の方が圧倒的に多いですよね。
前夜からジェットコースターのように恐怖体験が続いており、ギテクの心には非常に強いストレスがかかっていました。
目の前で娘が刺されるとか、そうはない体験です。
また、ダヘに背負われていたものの、血まみれのギウも見ています。
混乱し、尋常な精神状態ではなかっただろうというのは、容易に想像がつきます。
父親が社長を刺したのは何故?
悪夢のような前夜があり、今度は瀕死の娘を放って車を出せと言われた後、ギテクは社長が鼻をつまんで顔をしかめるのを見ます。
社長が鼻をつまむ行為を、ギテクは自分に対する嫌悪感・侮蔑だと感じ、刺したのだと思います。
表情からして、社長に明確な殺意があったとは、考えにくいです。
地下室男をかばう気も、さらさらなかったと思います。
しかし、ギテクの社長に対する感情は、前日から刻々と変化していました。
表情を見てると、どんどん気持ちが沈みこんでいくのが分かるんですよね。
ギテクは、前夜に社長の言葉を聞いて、「自分では分からないけれど、だいぶ臭いらしい」と思っています。
臭いことを引け目に感じ、恥ずかしく思っていますよね。
一方、地下室男はずっと入浴してないはずなので、ギテクより更に臭かったでしょう。
しかも乱入して人を刺してるので、社長は敵意まるだしで地下室男を扱いました。
社長は、ギテクに対して鼻をつまんだわけではありません。
しかし
- 社長は、ギテクは度を超えて臭いと言った
- 地下室男と半地下男(ギテク)は、社長から見ればどちらも臭い
という状況から、ギテクからすると、自分に対する行為に感じられたのではないでしょうか。
社長の地下室男に対する嫌悪感や侮蔑、敵意を、自分へのそれと感じたでしょう。
感情には、返報性という特徴があります。
自分のことを好きでいてくれる人に対して、よほどのことが無い限り、人は好意を返します。
逆に、自分のことを嫌う人には、やはり嫌悪感を返すのが、人間の感情の特徴。
社長の嫌悪感・敵意に対し、ギテクもまた無意識に同じ感情を返したように思いました。
- 嵐のような前夜の一連の出来事で疲れ切っていた
- 瀕死の娘は、救急車さえ呼んでもらえない
- ダソンのために車を運転しろ(=ギジョンは放っておけ)と言われる
- 気絶しただけのダソンしか、社長は助けようとしない
- 臭いからと鼻をつままれる
ギテクの気持ちをセリフにすると、「え?こういう扱いされるわけ?おいお前、ちょっと待てよ」という感じでしょうか。
明確な殺意があったというよりも、気がついたら刺していたように、映画では見えました。
ギテクは、侮辱されると激高しなくても、瞬時に攻撃的な態度をとることも、先に述べた通りです。
ギテクの心を風船に例えると、前夜の出来事でふくれあがった風船が、娘が刺されたことで、さらに大きく膨れていきます。
そこへ、社長が鼻をつまむという行為が最後のトリガーとなって、心の風船がはじけてしまったように思いました。
- 裕福層への自覚できない敵意や怒り
- 貧困層への自覚できない軽蔑や差別
というのが、この映画では「自覚できない自分の匂い」というメタファーを使って、うまく表現されているように思います。
「俺だって人間なのに、貧しいからといって、この扱いはないだろう」というのは、格差社会に苦しむ韓国の貧困層の気持ちを、監督が映画で代弁しているのかもしれませんね。
父親が社長を刺すまでの感情の変化は?
運転手に雇われてから刺すまで、父親ギテクの社長に対する感情は、どのように変化していったのでしょう。
良い感情を持っていたのなら、社長を刺すことはなかったはずです。
ギテクが社長を刺した理由を深く理解するために、ギテクの感情を時系列に確認してみましょう。
簡単に箇条書きすると、以下の場面で父親の社長一家への感情が変化していきます。
- キム一家が全員パク家に就職
- リビングテーブルの下で盗み聞き
- 誕生パーティ買い出し
- インディアンに変装して出待ち
- パク社長が鼻をつまんだ時
- 地下室で逃亡生活
はじめは社長をリスペクトしていた父親ギテク
順を追って、父親ギテクの感情を確認しましょう。
友人ミニョクの紹介で、裕福なパク家の長女ダヘの家庭教師になったギウ。
ギウを皮切りに、キム一家は全員がパク家に雇われることになります。
全員がパク家で働き口を見つけた時点で、ギテクは
「偉大なパク社長に、この場を借りて感謝だ!ミニョクにも」
と言っています。
ちなみに、ギテクは奥様のことを「騙されやすい」「本当に優しくて純粋」と評しています。
一方、ギジョンは「イカレ女」と完全にバカにしていますね。
ギテクは、パク社長をIT事業の成功者として、尊敬している印象でした。
運転手をしている時も、パク社長に愛想よくしています。
社長が「節度を超える人は大嫌いだ」とはっきり言っていたので、ギテクも気を遣っていましたね。
映画前半では、ギテクの社長に対する感情は悪くありません。
父親と社長の関係変化のきっかけは盗み聞き
ギテクと社長の関係に変化が現れたのは、ギテクがリビングテーブルの下に隠れた時。
社長と夫人の会話を聞いてしまってからです。
社長は、
- ギテクの言動と行動はギリギリだが、節度を決して超えてこない
- しかし、匂いが度を超えている
と言います。
自分の服の匂いをそっと嗅ぐギテクが、ちょっと切ないですね。
どんな匂いかというと
- 古い切り干し大根の匂い
- 煮洗いした古いふきんの匂い
- 地下鉄(の乗客)の匂い
- 言葉では表現できない
とも社長は言っていました。
さらには、映画前半で息子のダソンが、ギテクとチュンスクを嗅いで、
「二人は同じ匂い。ジェシカ先生もこんな匂いだよ」と言っていました。
ギジョンは自分たちの匂いを「半地下の匂い」と言っていましたね。
これらのことから、決していい匂いではなく、くさいのだろうと分かります。
そして、映像からは決して嗅ぐことのできない「におい」は、貧しさの象徴として使われてますね。
リビングテーブルの下で、ギテクは「社長は自分のことを、臭いと思ってるんだ」と認識します。
一応社長はギテクの技量を認めてもいるのですが、人間誰しも「あの人臭いよね」と陰で言われてると気づけば、相当ショックですよね。
自分では自分の匂いは分かりにくいもの。
だから治そうとしても、治しにくいもののひとつです。
この場面でのギテクの感情は、「恥ずかしい」「引け目を感じる」というところでしょうか。
パーティ買い出し中にムッとする父親
翌日、ダソンの誕生パーティに駆り出されたギテク。
ヨンギョ夫人が、パーティの買い物帰りに、車の後部座席で友人と電話で話す場面があります。
「今日は空が青くてPM2.5はゼロ。昨日の大雨のおかげ」
その大雨で家が水没したギテクは、ムッとします。
ヨンギョ夫人にとっては恵みの大雨ですが、ギテクにとっては家という財産を失ったわけです。
裕福なパク家と、貧しいキム家の格差が、ここでも浮き彫りになります。
ギテクの感情に気づかない夫人は、話しながら途中顔をしかめ、鼻をつまんで車の窓を開けました。
ギテクは、自分が臭いからではないかと、そっと服を嗅ぎます。
半地下の家は下水もあふれて、体育館に避難した翌日なので風呂にも入っていないはず。
確かににおいそうです。
前夜は元家政婦がやって来るまで、家族四人水入らずで、豪邸で良い酒やつまみを食べて、くつろいでいました。
それが、裸足で半地下の自宅へ帰り、しかも家が水没して避難所暮らしと急転します。
天国から地獄へ、真っ逆さま。
ここでのギテクの感情は、「やりきれない」「鬱屈感」、また強い疲労感もあったはずです。
社長の一線を超えた父親が言った一言
パーティが始まると、社長と一緒にインディアンに変装させられて、ギテクは茂みに隠れます。
息子と客へのサプライズ演出に駆り出されたんですね。
この時のギテクの表情はかなり沈んでいて、「バカバカしくて、やってられない」と顔に書いてあるかのよう。
誕生パーティが終わったら、また避難所の体育館へ帰るキム一家。
お金のためにやってるけど、本当はインディアンごっこどころじゃないですよね。
つい「社長もご苦労が多いですね。仕方ない。愛してますからね」と言ってしまいます。
これは社長の言う「一線を超えた言動」でしたね。
社長の顔色が変わり、「今日は勤務日だから、仕事の延長だと思って」とたしなめられます。
ここでのギテクの感情は、「バカバカしい」といったところでしょうか。
父親のトリガーになった社長の「鼻つまみ」行動
The smell of the working class
— Sascha (@Pasolinis_Asche) August 24, 2019
Parasite (2019🇰🇷) pic.twitter.com/m6vBBNGWGc
地下室男が庭に乱入し、ギジョンの胸を一突きにします。
ダソンは卒倒。
ギテクはギジョンを、社長はダソンを助けようとします。
血まみれのギジョンに、社長は目もくれません。
気絶した息子を、1分でも早く病院へ連れていきたいから、車を出せとギテクに命令。
自分で運転しようとして、地下室男の体の下から車のカギを取る時、社長は鼻をつまみます。
それがギテクのトリガーになってしまいました。
奇しくもその時ギテクは、インディアンの恰好をしていました。
インディアンは、白人たちに理不尽で不条理な扱いを受けた人種です。
同じ人間でありながら、怪我をしたわけでもない金持ちの息子は、瀕死の半地下の娘よりも命を優先されます。
ギテクは刺す瞬間、「差別」とか「格差」とか明確に認識していなかったはず。
けれど「おい、ちょっと待てよ」という怒りや不満、やりきれなさがあったろうと思います。
ちなみに、やはりインディアンに変装したパク社長も、とくに落ち度もないのに殺されるという不条理にみまわれています。
地下室暮らしになった父親
半地下暮らしだったギテクは、映画のラストでは地下室暮らしになります。
ギテクは、「社長、悪かった」と涙を流して謝りますね。
無意識的に社長を刺してしまったものの、我に返ったら申し訳なさが出てきたようです。
もともと社長を尊敬していたギテク。
「殺されるほどの、悪いことは何もしてない社長だったのに」と思い直したのでしょう。
また、元家政婦のムングァンを看取れて良かったといい、庭に丁重に埋葬したとも言っています。
もともと温厚な人だったので、自分のやったことにショックを受けたでしょうね。
半地下男から地下室男に転落したギテクが、その後どういう人生を送るのか、気になりますね。
息子のギウが、いずれ金持ちになって父親を地下室から解放したいと願う場面で、映画は終わります。
しかし、監督によると「ギウの年収では、あの家を買うのに547年かかる」という試算が出たそうです。
韓国は、日本よりもさらにひどい超格差社会と言われており、ギウが貧困から抜け出すのは大変そうです。
【パラサイト半地下の家族】解説・考察記事一覧
【パラサイト】父親はなぜ社長を刺したかまとめ
映画『パラサイト』は、父親ギテクが尊敬していたパク社長を刺し殺すという、驚きの展開をします。
父親のギテクは、
- ギテクは普段は温厚だが、侮辱されると攻撃的になる性格
- 前夜の「天国から地獄」のような体験で、不安定な精神状態だった
- 社長に対する感情は、前日から次第に変化していった
- 瀕死のギジョンを助けようとしない社長に、ショックを受けていた
- 社長の鼻をつまむ行為がトリガーになった
- 社長を刺したのは、社長の地下室男への態度を、自分への態度のように感じたから