『パラサイト 半地下の家族』では、ミニョクがプレゼントした山水景石(水石)が、映画のあちこちの場面で登場します。
映画の最後では、ギウが水石を捨てるという意味深な場面もありました。
「水石に何か意味があるの?」と思った人も多いのではないでしょうか。
この記事では、
- 水石の意味は?
- 各シーンで、水石はどんな役割・効果を出してる?
- 洪水で浮いた水石は、偽物?
- ギウは水石を持って、地下室に何をしに行った?
について、詳しく解説します。
【パラサイト】水石の意味は?キム一家の夢や希望などを象徴
Fun Fact: The scholar’s stone in Parasite is actually a fake stone gave by Min. That’s why it floats during the flood pic.twitter.com/FiWhWQGsPJ
— adib | (@adibS_98) March 15, 2020
映画の冒頭で、大学生の友人ミニョクが、キム一家に山水景石(水石)をプレゼントします。
映画の最後にギウが川に捨てるまで、この水石は6回映画に登場します。
水石と対照的キーワードとなる「安分知足」や、水石はどんな場面で出てくるのか、見ていきましょう。
水石の対照的なキーワード「安分知足」とは?
わあーい パラサイト来年 地上波放送するのね!面白かったし、ダンママも出てるし 見なきゃ割りと流血が好きなのよねぇ pic.twitter.com/Jj3jGMcwkn
— ようこっち (@aquamarine_1103) December 19, 2020
まずは、キム一家がどんな家族か確認しましょう。
- 半地下のアパートに住んでいる(=低所得)
- 4人家族で全員無職
- 父親は、台湾カステラの事業に失敗
- 母親は、投てきのメダリスト(だが無職)
- 長男は、4回受験に失敗
- 長女は、美大に行きたいが予備校に通えない
- wifi回線を契約する金銭的余裕がない
母親はメダリストで、陸上に才能があることが分かりますが、仕事に活かせていません。
そんなキム家の壁には「安分知足」という額がかかっています。
一般的には「知足安分」と言うことが多いです。
次の意味があります。
高望みをせず、自分の境遇に満足すること。
「知足」は足ることを知る意。
分をわきまえて欲をかかないこと。
「安分」は自分の境遇・身分に満足すること。
引用:三省堂 新明解四字熟語辞典
つまりは戒めの言葉ですね。
一瞬だけ、すみっこにしか映らないので、気づかなかった人も多いかもしれません。
しかし、この映画では重要なキーワードとなっています。
映画冒頭のキム一家は、「安分知足」を戒めとして、全員で内職して貧しさをしのいでいる家族だったんですね。
ミニョクがくれた水石の意味は3つ
貧しいながらも実直なキム一家が変わるのは、ギウの友人である大学生ミニョクが、水石を贈ってから。
ミニョクは、以下のことを言います。
- 祖父から届けてくれと頼まれた
- ミニョクの家は、リビングから書斎まで、水石があちこち置いてある
- 水石は、財運と合格運をもたらす
ギウは「本当に象徴的だね」
ギテクは「今の俺たちにぴったりだ」
チュンスクは「食べ物が良かった」
と、それぞれ感想を言います。
水石は裕福な人たちが好む観賞用の石で、いわゆるパワーストーンの一種。
ギウやギテクのセリフや状況から、水石がキム一家の願いや夢、希望を象徴していると言えるでしょう。
また、ミニョンは水石をプレゼントしてくれただけでなく、家庭教師の話も持ち掛けます。
全員無職の家に、就職話がきたわけです。
「財運と合格運をもたらす」という水石に、信ぴょう性がでますよね。
ミニョクがキム家にプレゼントする場面から、
- 水石は、お金持ちの象徴
- 水石は、キム一家の夢や希望の象徴
- 水石は、お守りとしての効果も家族に強く印象付けている
と言えるでしょう。
水石で酔っぱらいに対抗=凶器の伏線
次に水石が登場するのは、半地下の家の前で、酔っぱらいが立小便をするシーンです。
ギウは「ぶっ殺す」と言って、水石を持って外へ出ようとします。
この場面では、水石は「凶器になりえる」という、後半のシーンへの伏線として登場しているように思います。
水石が浮いた?偽物ではなく心理描写
パク社長一家がキャンプへ行っている間、豪邸でのんびり過ごすずだったキム一家。
しかし
- 元家政婦のムングァンが突然現れ、大騒動になる
- パク社長一家が急に帰宅し、とても焦る
- 逃げ帰ったら、自宅は水没していた
という、とんでもない展開になります。
半地下の家は、あっという間に水没してしまいました。
あのシーンでは、水石が浮いてきたようにちょっと見えますよね。
そのため、「あの水石は、偽物ではないか」と思う人もいるようです。
しかし
- 水石は、もともと棚の上(高い場所)に置いてあった
- 地下室の階段を転がる音で、石が重いと分かる
- ギウが殴られ大量に血が出たことから、石が重いと分かる
ことから、石が偽物と言い切るのは難しいかなと思います。
水に浮くって、かなり軽いはずですからね。
そんなに軽くては、殴られた時にあんなに血は出ないはず。
水石は「キム一家の夢や希望」の象徴です。
ただでさえ貧しい半地下の家が水没するという悲惨な状況で、ギウは「こんな貧乏、嫌だ」と思ったのではないでしょうか。
さっきまで、パク社長の嵐にビクともしない豪邸で、悠々としていたんですものね。
やりきれない思いのギウには、夢や希望の象徴である水石が浮かび上がってくるように見えた、という心理描写ではないでしょうか。
ギウは水石を抱えて避難します。
どうしても夢や希望を捨てられない、という切実な思いが込められている場面だと思います。
また、パク家から裸足で逃げ帰る途中、ギウは「ミニョクならこういう時、どうするだろう?」と言いますね。
ミニョクがくれた水石は、ミニョクの分身のような意味も持っているように思います。
水没した家から持ち出した水石は、「頼りにしているもの」の象徴でもあるのではないでしょうか。
水石を抱いて寝る=心のよりどころ
避難所の体育館で、ギウは水石を抱えて寝ます。
父親のギテクが「何で石を抱えてるんだ?」と尋ねます。
ギウは、「僕にへばりつくんです。僕についてくるんです」と答えます。
この場面では、「夢や希望を捨てられない」という気持ちを、別の視点から表現しているように思います。
「石が僕についてくる」と、石が主語になっていますね。
ギウは「自分が夢や希望を捨てられない、手放したくない」ということを、自覚していないのかもしれません。
水石を持って避難したのも、「どうしてか分からないけど、持ってきてしまった」という感じでしょうか。
キム一家は、ほとんど身一つのような状態で避難しています。
家まで失くしそうな状況に絶望しないために、夢や希望を抱きしめ、すがらなければ、やってられないのではないでしょうか。
この場面で水石は、溺れかけている人にとっての「浮き輪」のような役割を果たしています。
夢や希望の象徴(水石)が、心理的に追い詰められているギウにとって、唯一の心のよりどころになっているという場面だと思います。
水石で地下室男を殺そうとして逆襲される=因果応報
半地下の家が水没した翌日、ダソンの誕生パーティで、ギウはダヘに尋ねます。
「みんな急に集まったのに、クールですごく自然だ。ダヘ、僕は似合う?似合ってるか?ここに」
ギウは、自分のあり方に疑問をもちます。
不相応に感じているようです。
ここで映画冒頭に出てきた「安分知足」の言葉が、思い出されますよね。
そしてギウは、水石を持って地下室に降ります。
セリフなどで明確に言っていないので、何をしに地下室へ行ったのか、ちょっと分かりにくいですよね。
ギウは、グンセを殺そうと地下室に行ったんですね。
- 前夜の避難所でのギテクとの会話
- 足音がしないよう、忍び足で地下室へ降りた
- 半地下の自宅前で立小便した男を、水石で殴ろうとした伏線がある
という状況から、グンセを殺そうとしたことが分かります。
ひとつずつ見てみましょう。
避難所でのギテクとの会話
前夜に避難所の体育館で、ギウは父親とこんな会話をしています。
父親:「人を殺そうが国を売ろうが、知ったこっちゃない」
ギウ:「ごめんなさい。僕が全て責任をとります」
ギウにとっては
責任をとる=邪魔者を排除する
ということだったのでしょう。
足音を立てず忍び足で地下室へ降りた
足音がしないように、忍び足で地下室へ降りて行ったのは、グンセに気づかれないためですよね。
そういう場合、基本的にやましい思いがあるから、忍び寄るわけですね。
しかし、水石を落としてしまい、結局気づかれてしまうというドジを踏みます。
立小便した男を石で殴ろうとした伏線
映画の前半で、ギウは半地下の自宅前で立小便した男を「ぶっ殺す」と言って、水石をもって家を出ようとしました。
そういう性格のギウなら、水石でグンセを殴ろうとしても、おかしくないですよね。
立小便男を殴ろうとしたのは、前述のとおり、石を持って地下室へ降りるシーンの伏線でした。
グンセに逆襲されて、因果応報となる
しかし逆にグンセに襲われて、水石で頭を殴られ気絶。
自分の夢を脅かす男を、自分の夢を象徴する水石で倒そうとして、その石で逆襲されてしまいます。
キム一家は、詐欺でもってパク家に雇われ、不相応にお金を稼いでいました。
ギウは、ダヘが大学生になったら付き合い、いずれは結婚するつもりだと前夜言っていました。
結婚式は、他人に両親役を演じてもらうという計画を立ててましたね。
人をだまして不相応な夢を叶えようとして、自業自得のような結果になってしまいます。
「水石で地下室男を殺そうとして、逆襲された」という場面展開で、水石は「因果応報」を強く印象づけるアイテムとして使われています。
ここは「安分知足」という言葉が、伏線になって効いてます。
夢のために身を誤った一家、という感じがしますよね。
水石を川へ捨てる=より深い絶望
凄惨な事件の後、1カ月後にようやく意識が戻ったギウ。
日常生活ができるようになると、パク一家が住んでいた豪邸を見に行くようになります。
そして、父親のモールス信号に気づくんですね。
ギウは水石を川に捨て、心の中で父親に語りかけます。
「父さん、今日計画を立てました。根本的な計画です。お金を稼ぎます。大金を」
かつて水石は、
- キム一家の夢や希望の象徴
- 家族全員を就職させてくれた縁起の良いお守り
でした。
しかし、その水石で殴られて死にかけたわけです。
ギウからすれば、もはや「夢の象徴」「お守り」とは思えない、「禍のもと」のように感じたのではないでしょうか。
家に置いてあっても、つらい事件を思い出すだけで、いい気持ちはしないはず。
夢で身を誤ったギウは、水石を捨て「根本的な計画」を立てます。
表面的に見れば、「ギウは、実直に生きることを決意したんだなあ」と希望を感じるかもしれません。
「安分知足」の生活を心がけるのかなと。
しかしそうではなく、ギウがとても絶望的な状況にあることを示唆していると思います。
ギウの「根本的な計画」とは、金持ちになって父親を助け出すという「計画」ですね。
「夢」と言っていないところが、ポイントです。
「計画」という言葉も、映画の中で何度も出てきました。
父親はギウに「計画を立てるからうまくいかない」と言っていたのに、どうしてギウはわざわざ「計画」を立てたのでしょう?
それは、ギウは自分の「計画」が実現しないことが、最初から分かっているからですね。
だからこそ「計画」と言ったのだと思います。
ポン・ジュノ監督の試算によると、ギウの年収であの豪邸を買うには、547年かかるそうです。
水石という「夢や希望」を捨て、実現不可能な「計画」を立てたギウ。
- 金持ちになるという「夢」
- 金持ちになって父親を救うという「計画」
どちらにしても叶わないのです。
脳に障害も負っているし、ギウの今後はどうなるんでしょうね。
まじめに生きても這い出せない格差社会を、ふんわりさらりと、皮肉っぽくラストシーンで表現していると思います。
【パラサイト半地下の家族】解説・考察記事一覧
【パラサイト】水石の意味まとめ
『パラサイト 半地下の家族』で、何度も登場する水石。
「僕についてくる」とか、最後に捨てるとか、意味深なアイテムですよね。
- 水石は、キム一家の夢や希望の象徴
- 水石をもらってから全員就職できるなど、パワーストーンとしての役割も
- 地下室男に殴られる場面では、夢で身を誤ったギウ一家を表現
- 水石を川に捨てる行為は、夢も計画も叶わないギウの絶望的な状況を表現している