映画『万引き家族』のラストでは、バス停で治と祥太が会話するシーンがあります。
「祥太は、なぜ『わざと捕まった』と言ったの?」
「祥太は、バスの中で口パクで何て言った?」
と気になりましたよね。
この記事では、
- 祥太の万引きはわざとだった?
- 最後に祥太はなぜ「わざと捕まった」と嘘をついた?
- 最後に祥太はなぜ「お父さん」とつぶやいた?
- つぶやき「お父さん」に込められた意味とは?
について、考察をまとめました。
【万引家族】祥太が最後に「わざと捕まった」と嘘ついた理由は?
夜9時から放送
— フジテレビ (@fujitv) June 10, 2022
<土曜プレミアム>
映画『万引き家族』
是枝裕和監督最新作
『ベイビー・ブローカー』公開記念
カンヌ国際映画祭パルムドール受賞
世界が絶賛した衝撃の感動作‼️
とある事件をきっかけに変容していく
底辺一家のヒューマン・ドラマhttps://t.co/GGv4GRyMwL pic.twitter.com/WllbtZ9kXc
祥太の「わざと捕まった」は嘘
映画のラストで、施設に帰るバスを待っていた時に、祥太が治に
「わざと捕まった。僕、わざと捕まったんだ」
と言いましたが、嘘ですよね。
そもそも、なぜ祥太が捕まるような派手な万引きをしたか、確認しておきましょう。
祥太は、りんに万引きさせたくなくて、スーパーの外で待たせてました。
しかし、りんは追いかけてきて、お菓子を万引きしようとします。
バッグなど持ってなかったですし、すぐ側に店員がいたので気づかれそうでしたよね。
祥太は、派手に万引きしてオトリになり、りんが万引きしないよう、あるいは捕まらないようにしました。
しかし挟み討ちされて、逃げ場がなくなり、飛び降りて怪我をしたのでした。
「りんをかばって、わざと万引きした」なら本当で、嘘ではありません。
しかし「わざと捕まった」は嘘ですよね。
わざと捕まったなら、全力疾走で遠くまで逃げませんし、追い詰められて飛び降り足りなかったはずです。
【考察1】治を思いやったから
ではなぜ、祥太は「わざと捕まった」と言ったのでしょう。
バス停での祥太と治の会話を、振り返ってみます。
治「ちゃんと謝るんだぞ。おじさんに無理やり引き留められたってな」
祥太「うん、そうする」
治「ごめんな。おじさん、もう会わ(ない)」
祥太「わざと捕まった。僕、わざと捕まったんだ」
祥太は、「ごめんな」と言った後に「わざと捕まった」と言っています。
なので、治を思いやって、罪悪感を軽くしてあげるために、「わざと捕まった」と言ったのかもしれません。
祥太は、警官から「治たちは、あなたを置いて逃げようとした」と聞かされています。
裏切られた感は大きかったでしょうが、初枝が死んだ時の治の「ばあちゃんは、最初からいなかった」などのセリフから、
こういう人なんだとは思っていたでしょう。
裏切りの事実を知っても一緒に釣りに出かけたり、部屋に泊まったりしています。
治に「僕を置いて逃げようとしたの?」と確認した時も、感情的にならずに治の謝罪を受け入れていました。
治に対する感情は複雑だったでしょうが、「恨みつらみが溜まってる」という感じではないですよね。
祥太は優しい子です。
りんに万引きさせないようにしたり、警察に捕まった時も治たちをかばいました。
祥太は、治が何度も「ごめんな」と謝ってくれたので、気持ちが収まったのかもしれません。
「僕はわざと捕まったから、おじさんは自分を責めなくていい」という気持ちを込めて言ったのかもしれないなと思いました。
【考察2】治にまた会いたかったから
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2つ目の理由は、ひとつ目に近いのですが、治にまた会いたいから「わざと捕まった」と言った可能性があるかもしれません。
バス停で、治が「ごめんな、おじさんもう会わない」と言いかけるのを遮って、祥太は「わざと捕まった」と言っています。
「もう会わない」と言わせなかったんですね。
それは、祥太の「もう会わないなんて、言わないでほしい」という気持ちの表れかもしれません。
つまり、また会いたいという気持ちがあったのではないでしょうか。
しかし思うに、治はとても弱い人間です。
ひとりで生きていけると思えません。
治はおそらく信代が出所するまで待つでしょう。
しかし、出所は何年も先ですよね。
それまでひとりで持ちこたえると思えないんですよね。
なので、「もう会わない」と言った気持ちに嘘はなかったしょうが、
いずれ耐えられなくなって祥太に会おうとしたのではないかと思ってしまいます
【考察3】治を捨て返したから
最後にもうひとつ、全然違う理由も考えてみました。
祥太は、血はつながってないものの、5人には家族感情を持っていたと思います。
なので「あなたを置いて逃げようとした」と知らされて、傷ついたはず。
信じたくない気持ちがあったから、治に「ねえ、僕を置いて逃げようとしたの?」と尋ねたのでしょう。
治は否定せず、素直に謝りました。
祥太は怒らず「うん」と返事してましたね。
祥太としては、捨てられたような気持ちになったでしょう。
翌朝、バス停で治がまた「ごめん」と言われて、みじめな気持ちが刺激されたのかもしれません。
「僕もおじさんたちを捨てたんだ」という意味合いを込めて「わざと捕まった」と言った可能性もあるかもしれません。
捨てられたから、捨て返したという感じですね。
たったひと言の「わざと捕まったんだ」は、いろんな角度から見られるセリフと言えそうです。
【万引家族】最後に祥太が「お父さん」と口パクした理由や意味は?
祥太は最後に何とつぶやいた?
祥太がバスに乗ると、治は追いかけます。
治が「祥太!祥太!」と呼びますが、祥太は振り返りませんでした。
しかし、しばらくすると祥太は振り返って、何かをつぶやきます。
祥太が何と言ったか、DVDを何度かリプレイして確認しました。
祥太は「お父さん」とつぶやいています。
最後に祥太が「お父さん」とつぶやくのは、かなり意味深で気になりますよね。
祥太が最後に「お父さん」とつぶやいた理由は?
今を生きる子供たちが大人になるまで残したいと思う映画です。
— 映画『万引き家族』公式 (@manbikikazoku) June 27, 2018
二十年後、この映画がもう一度祝福されることを願ってやみません。
坂元裕二(脚本家)#万引き家族コメント#坂元裕二 pic.twitter.com/pcFtljhdln
治があれほど「父ちゃんって呼んでいいぞ」と言っても、決して言わなかった祥太。
その祥太が「お父さん」と言ったとなると、何か意味や理由がありそうですよね。
しかも、治本人の前では言わず、バスの中で小さくつぶやいただけでした。
祥太は最後になぜ「お父さん」とつぶやいたのでしょう?
逆説的ですが、治が「おじさんに戻る」と言ったから、やっと「お父さん」と言えた感はあると思います。
前の晩に、治は「父ちゃんさ、おじさんに戻るよ」と言い、祥太は「うん」と答えています。
お父さんと呼んで欲しがった治は、おじさんになりました。
祥太には本当の親にこだわりがあり、「お父さん」「お母さん」は特別で大切な言葉でした。
また、下手に治の前で軽々しく言うと、きっと大喜びしてしまうでしょう。
治にとっても「お父さん」は特別で大切な言葉でしたよね。
祥太が本人の前ではなく、バスの中でつぶやいたのは、治に対する思いやりだったと思います。
お父さんではなかったけれど、お父さんになりたがった人。
どうしても「お父さん」とは呼ばなかった人、呼べなかった人。
治の「お父さんと呼べ」呪縛が解けたから、祥太はようやく小さくつぶやいたのではないでしょうか。
また、ふたりは最後に「じゃあまた」とは言いませんでした。
祥太は「もしかしたら、これが最後になるかも」という気持ちもあったかもしれません。
そのため、「最初で最後の言葉」のようにして、ふたりの関係が何だったかを確かめるようにつぶやいたのかもしれませんね。
祥太の最後のつぶやきに込められた意味は?
祥太の「お父さん」というつぶやきには、どんな意味があったのでしょうか?
私は「家族って、何だろうな?」という意味が込められているように思いました。
それは『万引き家族』のテーマでもあったろうと思います。
また、「家族ごっこはお終い」とピリオドをうつ、映画のストーリー構成上、大きな意味があったと思います。
誘拐されて、学校にも行かせてもらえず、万引きを仕込まれた祥太。
しかし「車から助けてくれた」と言っているので、夏の車の中に置き去りにされていた可能性がありそうです。
暴力をふるわれたわけでもなく、どちらかと言えば優しくされていたので、祥太の気持ちも複雑ですよね。
疑似家族の物語を、祥太の「お父さん」というセリフが締めくくったのは、強い余韻の残る印象的な最後でした。
【万引家族】最後の祥太まとめ
- 最後に祥太が「わざと捕まった」というのは嘘
- 祥太が最後に嘘をついた理由は「治の罪悪感を軽くするため」「また治に会いたかったから」「治を捨て返した」などが考えられる
- 祥太が最後にバスで口パクでつぶやいた言葉は「お父さん」
- 祥太が最後に「お父さん」とつぶやいたのは、治がおじさんになったことで逆説的に言えるようになったから
- 祥太の「お父さん」というつぶやきには、「家族って、何だろう」という意味が込められていたように思う
- また、祥太が「お父さん」とつぶやくのは、「家族ごっごはお終い」というそれまでの関係にピリオドをうつ印象的な演出と考えられる