映画『罪の声』は実際に起きた昭和の「グリコ森永事件」をモチーフにしています。
犯人たちは身代金ではなく、仕手と呼ばれる株式操作で稼いだという設定です。
映画では、元証券マンの立花が阿久津に説明していましたが、少し分かりにくいところもありましたね。
この記事では
犯人グループが株価操作の仕手でどうやって儲けたのか
劇中の「黒目の外人買い」とは何?
どうして身代金ではなく、株価操作の仕手で儲けようとしたのか
について、分かりやすく解説します。
「くら魔てんぐ」のメンバーなどについては、他の記事を参照してください。
【罪の声】株価操作の仕手とは何?犯罪ではないの?
大日新聞記者の阿久津は、35年ぶりに「ギン萬事件」を取材しますね。
犯人たちは、株の仕手で儲けたのではないかと仮説を立てます。
元証券マンの立花が阿久津に仕手について説明しますが、株をしたことがないと分かりにくいですよね。
仕手とは何?
仕手とは、投資家が個人や集団で、意図的に株価を操縦して儲けることを言います。
特定の銘柄を、株価が安いうちに買い付けて、次第に目立つように一気に買い付けていくんですね。
そうすると、チャートを見た他の投資家たちが「これは有望株かもしれない」と思って買い付け、株価が上がっていきます。
株価が十分上がったところで売り、一気に株価が下がったところで、自分で安く買い戻します。
この株価の差額が儲けになるのです。
次章で「くら魔てんぐ」のケースについて、分かりやすく図解しますので、そちらを参照してください。
ちなみに、仕手の銘柄を仕手株、仕手を行う投資家を仕手筋と言います。
また、仕手という言葉は、能の「シテ(主役)」に由来しています。
仕手は犯罪?
仕手で株価を操作すること自体は、犯罪ではありません。
しかし、株価操作のために「あの会社は経営悪化で倒産しそう」などの風説を流したり、粉飾決算に関わったりすると、違法となります。
【罪の声・図解】株価操作(仕手)でどうやって儲けた?どういう仕組み?
ギン萬事件の犯人グループ「くら魔てんぐ」は、メンバーが9人います。
犯行計画の計画を立てたのは、曽根達雄。
実際に株を操作する担当だったのは、吉高弘行です。
新聞記者の阿久津が元証券マンの立花に、仕手がどういうものが教えてもらう場面がありますね。
原作の小説から、立花の説明をそのまま引用してみましょう。
構図で言うと、まず全体の流れを指揮する仕手本尊がいて、子分みたいなのが四、五人ぐらいかな?
でもまぁ、その仕手筋によって、まちまちですけどね。
要は親分子分関係があって、彼らが金主を捕まえるわけですよ
引用元:塩田武士『罪の声』
金主というのは、株を買うためにお金を出してくれるスポンサーのことですね。
つまり
仕手本尊=吉高弘行
金主=上東忠彦
子分=くら魔てんぐの他のメンバー
ということです。
劇中では、上東忠彦も「くら魔てんぐ」のメンバーの一人となっています。
メンバーの相関図や役割分担については、他の記事に書いていますので参照してください。
仕手本尊の吉高弘行は、金主から金を預かった後、どうしたのでしょうか?
仕手が買いまくって株価が上がるでしょ、まだまだ上がるよって情報を流す。
すると会員がどんどん買いに入るんですけど、仕手筋が売り抜けて株価がドーンと下がる。
損を出したまま、売るに売れない会員は塩漬けですよ
引用元:塩田武士『罪の声』
ここで「会員」と言われているのは、一般の個人投資家ですね。
図で分かりやすく解説しましょう。
(1)金主の金で、特定の銘柄を買い集めます。
この場合は「ギンガ」や「萬堂」ですね。
この段階では他の投資家に気づかれないよう、少しずつ買うイメージです。
(2)ある程度株を購入したら、次に一気に買い集めます。
そうすると、株のチャートがぐっと上がるんですね。
そうするとそれを見た一般の投資家は、「これから上がる有望株かも?」と期待します。
そこに「これからもっと上がるよ」と情報を流すと、投資家ががこぞって買うため、どんどん株価が上がります。
また、「300万円あずけてくれたら、倍にして返すよ」などと言ってお金を集め、株価を釣り上げたりします。
(3)仕手筋は、予定していた株価の8割くらいになったところで、自分の持ち株を売ります。
この段階で、金主から預かっている金額を回収すれば、決して損はしないわけです。
自分た売った株を他の投資家が買うため、大量に売っても株価は下がりません。
他の投資家はまだ株価が上がると期待して買い続け、しばらくは株価が上がります。
(4)仕手筋が設定していたピーク金額で、株を空売りします。
空売りというのは信用取引のこと。自分の手元にない株を、「借りて売る」ということができるんです。不思議ですよね。
空売りした直後に、「ギンガや萬堂の菓子に青酸ソーダを入れた」と脅迫状を出します。
すると、株価が下落します。
(5)株価が底値になったところで、再び安くギンガの株を安く買い戻します。
ピークで空売りした株価との差額が儲けとなります。
先に空売りしているので、ここで取引は終了し、手元に株は残りません。
単純といえば単純。鮮やかといえば鮮やか。
「くら魔てんぐ」はこうして儲けたんですね。
ちなみに、これはあくまでも『罪の声』の原作小説を元に解説しています。
仕手の方法は、必ずしも上記だけとは限りませんが、「株価が下がる」というのが分かってる場合に儲けられるのが仕手の基本です。
【罪の声】株の「黒目の外人買い」とは何?
阿久津は、元証券マンの立花から株や仕手について教わります。
その中で、ギンガの社長が誘拐される2カ月前に、ギンガの株が上がっているという記事について質問します。
「欧州筋の買いが続く」という見出しですね。
阿久津は、「どうしてヨーロッパの投資家がギンガの株を買うんだろう?」と思ったわけです。
それに対し立花は、「これは100パーセント、“黒目の外人買い”ですよ」と答えますね。
「黒目の外人買い」とはつまり、「海外の証券会社を通して株を購入する日本人」のことです。
今ではありえませんが、昭和の時代には、本人以外の名義で口座を開くことができました。
これを「仮名口座」と言います。
当時よくあったのは、仮名口座を使って、香港にある日系証券会社の支店経由で、スイスの日系証券会社で売買するという方法。
香港もスイスもタックス・ヘイブンのため、課税されません。
さらに仮名口座なので、足がつきにくいわけですね。
昭和時代の香港は、イギリス統治でした。なので「欧州筋」になるのです。
課税されず足もつきにくいわけですから、『罪の声』の時代は株を使った経済犯罪も、やりやすかったのでしょう。
【罪の声】犯人が身代金ではなく、株価操作(仕手)で稼いだ理由はなぜ?
犯人たちは、ギンガや萬堂を脅迫したり、社長を誘拐したりします。
億単位の身代金を要求しますが、一度も受け渡しをしていません。
曽根達雄は、オランダのハイネケン誘拐事件を調べた時、身代金の受け渡しは成功しないと判断したんですね。
場所を指定すると、必ず誰かが金を取りに行かなければいけないので、高い確率で足がついてしまうからです。
曽根達雄は、株価を操作することで利益を得ようと考えました。
株の方が安全で、儲けが大きいからです。
現金10億円なんて、持って運ぶのは重いし大変ですしね。
「青酸ソーダ入りの菓子をばらまいた」と脅迫すれば、株価を暴落させられます。
そうやって犯人たちは金儲けしたんですね。
しかし、1人2億の報酬の予定が、青木たちが「思ったより儲からなかった」として300万円しか渡さなかったため、「くら魔てんぐ」は仲間割れすることになります。
犯人グループの相関図や役割、仲間割れの経緯などについては、こちらの記事を参照してください。
【罪の声】解説・考察記事一覧
【実話関連】
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【ストーリー解説】
【犯人関連】
【キャスト関連】
【罪の声】株価操作(仕手)でどうやって儲けた?仕組みや方法の解説まとめ
誘拐や脅迫犯罪のように見せかけて、実は株の仕手で儲けていた『罪の声』の犯人グループたち。
この記事のまとめは
仕手という株価操作を行い、差額で儲けた
仕手(株価操作)自体は犯罪ではない
株価を暴落させるために、青酸入り菓子をばらまくなど脅迫事件を起こした
仕手という方法を選んだのは、身代金犯罪よりも安全で儲けが大きいから