ジブリ映画『ゲド戦記』では、タイトルが表示される前の早い段階で、主人公アレンが父親を殺します。
なぜ殺したのかは、はっきりとは説明されません。
原作には、アレンが父親を殺す場面はないので、ますます謎です。
この記事では、
- アレンはなぜ父親を殺した?
- 原作者のル・グウィンは、父親殺しを批判
について、解説します。
この記事は、原作小説『ゲド戦記』と『ジブリの教科書14ゲド戦記』を参照しています。
\ジブリの教科書/
【ゲド戦記】アレンはなぜ父親を殺した?
映画『ゲド戦記』では、映画が始まって間もなく、17歳の主人公アレンが父親を刺し殺します。
そのまま逃げて、動機の説明もないので、「どうして殺したの?」と不思議に思ってしまいますよね。
映画『ゲド戦記』は、ル・グウィンの小説を原作としています。
しかし、原作にはアレンが父親を殺す場面はありません。
そのため原作を読んでも、アレンが父親を殺した理由は分からないのです。
アレンが父親を殺すという場面展開は、実は鈴木敏夫プロデューサーが発案したそう。
『ジブリの教科書14ゲド戦記』という本で、制作の裏話が紹介されています。
監督の宮崎吾郎さんいわく、
「きっかけは、鈴木プロデューサーの『この子は父親を殺しちゃうんだよ』というひと言です。
引用:『ジブリの教科書14ゲド戦記』文春ジブリ文庫
最初は、アレンが逃げるというストーリーだったそうですが、鈴木さんから
「それじゃ親父から逃げるみたいでよくないよ。ここは刺さなきゃ」
引用:『ジブリの教科書14ゲド戦記』文春ジブリ文庫
と、刺し殺すことを強く提案されたそう。
宮崎吾郎さんは、次のようにも語っています。
若い人には、おそらく十分わかってもらえるだろうと思いますが……。
アレンは別に、 父親を憎んでいるとか、嫌いとか、そういうことではないんです。
たぶん尊敬もしているだろうし、好きでもある。
だけど、自分が陥っている閉塞感やがんじがらめな気分が抑えきれなくて暴走する時に、その矛先が誰に向かうのか?
自分を取り巻いている隙間のない世界、そのある種の「象徴」が、父親だと思うんですよね。
一番近しくて、なおかつ、社会を象徴するものとしての父親。
曖昧な不安が暴発する時に、そこにエネルギーが向かった。
引用:『ジブリの教科書14ゲド戦記』文春ジブリ文庫
思春期のコントロール不能な若さゆえ、ということのようです。
「魔が差した」という言い方もできるのかもしれません。
劇中、アレンも
「分からないんだ、どうしてあんなことをしたのか」
と言っています。
また、映画の予告編には、
「父さえいなければ、生きられると思った」
というキャッチコピーがつきます。
宮崎吾郎さんは、「これは、僕のことのように思われてしまうのではないか」と思ったそうです。
そして「僕は父がいても生きていけますよ」と本のインタビューの中では笑っています。
でも、宮崎駿さんの息子・吾郎さんのデビュー作となると、誰でも「これって、宮崎駿さんのことかな?」って思いそうですよね。
この辺りも、辣腕プロデューサー鈴木敏夫さんらしい仕掛けように思えます。
【ゲド戦記】アレンの父親殺しを原作者が批判
宮崎吾郎さんは、鈴木敏夫さんから「アレンが父親を殺す」という提案を受けます。
自分の閉塞感を破ろうとして、矛先が「自分を取り巻く環境の象徴」である父親に向いたから、という動機付けで、宮崎吾郎さんは納得しています。
しかし、原作者ル・グウィンは、納得いかなかったようです。
原作のアレンは人格者なので、映画の展開は結構ショッキングなんですよね。
映画『ゲド戦記』は、
- 原作小説3冊目『さいはての島へ』と他の巻
- 宮崎駿さんの『シュナの旅』
をミックスした内容になっているため、グウィン原作の小説とは内容がかなり違うのです。
アメリカの作家アーシュラ・K・ル=グウィンの小説「ゲド戦記」。シリーズ一作目の「影との戦い」は日本を代表するアニメ映画監督・宮崎駿の愛読書。グウィンは元々SF界の女王と称されるほどのSF作家ですが、ゲド戦記も違わず頗る面白いです。魔法や竜といったファンタジーの代名詞をよく描いた名作pic.twitter.com/s1HUZ1Zi1j
— 今昔@読書垢 (@imamukashi672) November 24, 2017
グウィンは、基本的には「原作と映画は違ってていい」という考えでした。
しかし、
映画中で描かれる“アレンの父親殺し”には動機がみえません。
『ダークシャドウ、分身がやったんだ』って説明が後から出てくるけど、それも納得いきません。
引用:https://tsutaya.tsite.jp/news/movie/38425857/
と、結構強く批判しています。
原作では、影につきまとわれるのは、アレンではなく若き日のゲドです。
そして原作では、影について丁寧に書いているので、映画の描写が雑で分かりにくく思えたよう。
また、グウィンとしては、本当は宮崎駿さんに作ってほしかったという気持ちが強かったのもあるでしょう。
実は、20年以上前に宮崎駿さんが、グウィンの原作を映画化したいと申し出ていました。
しかし、宮崎駿さんを知らず、アニメ嫌いだったグウィンさんは断ります。
それから10年以上たって、『となりのトトロ』で宮崎駿ファンになったグウィンが、今度は自分から映画化を持ち掛けたのです。
しかし、宮崎駿さんは引退を考えている時だったため、吾郎さんが監督をすることに。
監修は駿さんがすると思っていたグウィンは、駿さんがノータッチだったことを後から知って、かなり怒っていたそうです。
一方で、グウィンは
- ドラゴンの翼の折りたたみ方
- 動物の描かれ方
- ゲドの声優・菅原文太さんの声
- 手嶌葵さんの歌
などについては、褒めています。
原作者としては、あまりに自分の作品と映画がかけ離れていたので、ショックだったのでしょうね。
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【ゲド戦記】アレンが父親を殺した理由まとめ
映画『ゲド戦記』には、主人公アレンが父親を殺すシーンがあります。
原作小説にはないシーンで、劇中では動機がはっきり分かりません。
- アレンが父親を殺すというストーリーは、鈴木敏夫プロデューサーの発案
- 監督の宮崎吾郎さんは「アレンが逃げる」という物語を考えていたが、鈴木Pが「親父から逃げるようで良くない」と言って、刺すことになった
- 原作者のル・グウィン氏は、アレンの父親殺しの動機が不明瞭なことに納得がいかないと批判した
というのが、この記事のまとめです。